女の子キラ−7 (本編6話より)




「アスラン。お願いがあるの。
 艦長たち・・・AAの艦長たちに会えないかしら?」

格納庫でストライクのロックを外した後
アスランの部屋に落ち着いてからも、キラは考え込んでいた。
アスランはそのキラを黙って見守るしかない。
やっとキラが顔を上げて言ったのが、その言葉だった。

***

「隊長の許可は下りた。ヴェサリウスへ行こう」

キラはAAの意向に添わず行動した。
そのお陰でAAは沈まず、乗員も死なずにすんだ。
しかし、軍人であるAAのクルーが、果たしてキラを傷つけないか。
アスランはそれが心配だったが
キラが希望するというのなら、後悔しない決断をさせたいとも思った。

「ただし、面会は一人、艦長のマリュー・ラミアス大尉だけだ」
「ええ。ありがとう」
キラの顔色は少し悪かったが、にこっと笑った。

***

「AA艦長、マリュー・ラミアス大尉を連れて参りました」

キラがアスランと共に待っていた、ヴェサリウスの一室に
手錠をされた、マリューが連れて来られた。

マリューを連れてきた兵士は、アスランが室外で待つよう指示した。
これで、部屋には、キラ・アスラン・マリューの三人のみである。
アスランはマリューの手錠を外し、入り口の前に下がった。

「キラさん・・・」
「艦長・・・」
二人は、互いに相手に怪我などが見受けられないのを認めた。

「無事、だったのね。よかったわ」
安心した、というように、マリューは息を吐いた。
「艦長も。捕虜、ということでしたけど、大丈夫でしたか?」
「ええ。捕虜としては、思っていたより待遇が良いわ」

この女性は、キラを本当に心配していたのだ。
二人の会話を聞きながら、アスランは安心した。

「あの、すみませんでした。勝手なことをして」
謝るキラに
「あなたが謝ることではないわ。
 確かにあのままでは、AAは墜ちていました。
 任務に忠実であろうとして、大事なことを忘れていたわ。
 あなたのお陰で、みんなの命が助かったの。
 ありがとう」
マリューも、頭を下げた。

頭を起こしたマリューは、扉の横に立っているアスランに目をやった。
見はりの兵にしては、キラに緊張がないように思う。
その赤い軍服を着た少年が、ずっとキラを優しい目で見ていることにも気づいていた。
だから、聞いてみた。

「ところでキラさん。そちらの人は、キラさんのお知り合い?」
「あ、はい。アスラン、来て」

キラはまず、アスランにマリューを紹介した。
「アスラン、憶えてるかしら。このマリュー・ラミアス大尉は
 ヘリオポリスで、私をストライクに保護してくれた人なの」
「ああ。憶えてるよ。確かにあのままでは、キラが危険だったろうと思う」
キラは話しながら、アスランがマリューに撃たれたことを思い出したが
アスランは気にしない、どころか認めてくれているようなのでホッとした。

そして、マリューにアスランのことを説明する。
「艦長、彼はアスラン・ザラと言います。
 ご覧の通り、ザフトの軍人ですが、私の幼なじみでもあります」
「あら。偶然ね。あちらの艦で再会したのね?」
聞かれたキラは、少し迷ったが、ちゃんと話そうと思った。
「再会したのは、ヘリオポリスです。ストライクに乗る直前に」
「あの、侵入してきた隊にいたの?でも・・・」
「ストライクの上で。最後に艦長が撃ち合ったザフト兵です。憶えてますか?」
マリューは目を見開いた。
「あの、赤いパイロットスーツの?」
「そうです。・・・その後・・・」
「ちょっ、ちょっと待って!そういえば、私達の前でなぜか突っ立っていたのは・・・」
「・・・私達が互いを認めて・・・呆然としていたんです」

マリューがアスランを見ると、彼は静かに肯定した。

驚きで固まるマリューに、さらにキラは教える。
「アスランは、イージスのパイロットです」
「え・・・あ、じゃ、じゃあ、先日の戦闘でストライクを捕獲したのは・・・」

気づいたマリューに、アスランが答えた。
「あのままでは、ストライクはデュエルに破壊されていました。
 ・・・あの時に連れて来られれば、キラをあんなに傷つけることはなかったんですが」

驚きながらも、マリューはアスランの言葉に気を留めた。
「待って。キラさんが傷つくって、どういうこと?」

「キラ?」
言っていいか?と、アスランがキラに目で問うと、キラは穏やかに肯いた。

「アルテミスで、裏切り者のコーディネイターと言われたそうです。
 もともと、AAの乗員や民間人の一部に
 コーディネイターであるキラを良く思っていない人がいて
 かなり、キラの負担になっていたんでしょう。
 そこへ、その言葉で」

まるで気づかなかったマリューには衝撃だった。
「キラさん・・・」
「艦長、もう済んだことなんです。今の私にはアスランがここにいます」
キラは、にっこりと笑う。

キラの笑顔に、マリューも笑顔になった。
「そう。・・・彼は、幼なじみで、恋人なのね?」
「そうです」
「では、キラさんはザフト軍に志願するのね?」
「はい。もう二度と、離れません」
当然のように言うマリューと、きっぱりと言うキラに、アスランの方が慌ててしまった。

「キ、キラ!そんな簡単に!もうキラが戦う必要はないんだ!」
「アスラン。アスランが私の心配をしてくれるのは嬉しいの。
 でも、アスランが危険な目にあっているのを知らない方が辛い。
 私にも、アスランを助けることができるって、あの隊長さんは言ったわ」
「だが・・・」
「迷ったわ。確かに、もう戦いはイヤ」
「それなら・・・」
「それでも。それでも、よ。あなたの傍で、同じものを見たいの」
キラは、アスランの目を見つめ、しっかりと言った。

「キラ・・・」
アスランは、キラを抱きしめずにはいられなかった。
「守るから。絶対に、キラを守る」
キラはアスランの腕の力に、彼の気持ちを痛いほど感じた。
「うん」

「艦長たちとは、敵、になってしまいますね」

アスランの腕が解かれてから、キラはマリューに言った。

「そう、なるわね。できれば戦場では会いたくないけど。
 まあ、今は捕虜だから。捕虜交換が行われるまではその心配はないわね。
 それに、捕虜となったものは、しばらく前線からは外されるから」
マリューの言葉で、キラもちょっとホッとした。

「戦争が終わったら、また、会いましょう」
マリューは、互いに生き残ろうという意味だった。
「はい。必ず」
マリューはアスランにも
「戦時中に結婚式は挙げないわよね?私も呼んでくれるかしら?」
と言い、了解を得た。
「ふふ。楽しみにしているわ」

そうして笑顔のまま別れた。

***

ヴェサリウスに戻っていたクルーゼにキラは決意を告げた。

クルーゼは、キラを技術者として扱うつもりだが
場合によっては、MSのパイロットを兼ねる可能性を示唆した。
軍上部が、優秀なパイロットを惜しんでいるらしい。

それでもキラは考えを翻したりはしなかった。

「では、正式に手続きをとる。
 完了するまでは業務はないから、艦内を見てまわるといい。
 わからないことは、アスランが教えるだろう」
「わかりました。よろしくお願い致します」

***

ガモフに戻ったキラは、すぐにミリアリア達のもとへ向かった。

「ミリアリア。みんな。私、みんなに話すことがあるの」

トール達、男三人はなんだろう?という顔をしたが
ミリアリアは違った。
「キラ、やっぱりザフトに入るのね?」

ミリアリアの言葉に驚いたのは、他の三人だった。
「おい、ちょっと待て、そんな訳ないだろう!」
「そうだよ、キラ、俺達とオーブに行くよな!」
「だって、もう戦う必要ないんだろ!」

ミリアリアが三人を諭す。
「キラ、やっと好きな人と会えたのよ。離れるわけないでしょうが。
 でしょ、キラ?」

「うん、今、志願してきた。手続きが終われば、この隊に配属される」
「じゃあ、ずっと一緒に居られるのね。よかったわ」
ミリアリアは、キラが生き生きしていることが嬉しかった。
AAに乗ってから、キラは笑っていてもどこか辛そうだったのだ。
キラは、この幼なじみだという、きっと恋人である彼といるのが幸せなのだ。

それでもキラと別れなければならないのは寂しかった。
「必ず、オーブに会いに来てね?二人で」
オーブにザフト軍人が入ることは出来ない。
つまり、戦争が早く終わるのを願っているという意味だ。

「ええ。必ず行くわ、二人で」

***

「本当に良かったのかい?」
「もちろんよ。信じて。私はあなたの傍に居たいの。
 ・・・それとも、アスランは私が居たら迷惑なの?」
ちょっと拗ねたようにキラは言い
「迷惑なわけないだろう・・・」
アスランは苦笑した。

「この戦争を早く終わらせる。
 だから・・・キラ、結婚してくれ」
「・・・プロポーズ?」
「ああ。キラを絶対守るから。結婚して欲しい」
真摯に言うアスランに、キラは三年前の約束を思い出した。
そう、キラを守れるようになったら、迎えにくると言ったのだ。
キラは涙が溢れてくるのを感じながら
「はい」
しっかりと答えた。

***end
終わり!
やぁっと終わりました
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます
内容的には別に男の子のままでもいいかなと思わないではなかったのですが
私的には、男の子なキラの性格だと展開が・・・ということで
でわ
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