女の子キラ−4 (本編6話より)




五人は、パイロット控え室へ移動した。

「先ほど隊長から連絡がありました。
 ストライクのパイロットについてはとりあえず、アスラン、あなたに任せるそうです」

ニコルに言われたアスランは、驚いて顔を向けた。

「さっき、すぐにイージスを降りたでしょう。
 あの後、隊長から僕たち全員にそう指示されたんです。
 どうしてかとは思いましたけど、お知り合いだったんですね。
 ゼロのパイロットについては、捕虜にということでしたが」

アスランの後ろに隠れていたキラは、ニコルの言葉に顔を出した。
一緒にこの艦に来たフラガ大尉のことを、やっと思い出したのだ。

「あ、あの。フラガ大尉は?」
「着艦してすぐ、拘束しました。・・・大丈夫、お元気でしたよ」

心配そうな顔をしたキラに気づいたニコルは、言葉を足した。

にこっと笑ったニコルに好感を持ったキラは、アスランの陰から出る。

「初めまして。ブリッツのパイロット、ニコル・アマルフィーです」
キラの横で、彼女を気遣わしげに見るアスランを横目に、ニコルは自己紹介をした。
「あ・・・初めまして・・・キラ・ヤマトと言います」

瞳を揺らしながら名乗る美少女。
この少女が、あのストライクのパイロット?
見た目もその態度も、どう見ても訓練した兵士には見えない。
しかし、彼女は実際にストライクに乗っており
自分たちと戦闘を行っていたのも確かなことだった。
アスラン以外の三人は、自分たちが翻弄されたパイロットの正体が
こんな、とても戦いに向くとは思えない少女であったことに驚かずにはいられなかった。

「あ、あの・・・」
呆然として固まっている三人に、どうしてよいのかわからずキラは戸惑ってしまった。

本人たちが言わないので、アスランは仕方なくキラに紹介する。
「キラ、他の二人も紹介するよ。
 銀髪の方が、デュエルのパイロットで、イザーク・ジュール。
 金髪が、バスターのディアッカ・エルスマンだ」

アスランは三人に向き直り、キラと自分の関係を説明し始めた。

***

「つまり、幼なじみなんですね」
「って言うより、恋人なんじゃない?さっきの様子だとさ」
「アスランお前、ラクス・クライン嬢を裏切っているということか」

イザークの言葉に、キラはびくっとしてアスランから離れた。

裏切り・・・ダメ・・・アスランは裏切ってない・・・

「違います!アスランは、慰めてくれただけで・・・!」
キラが真っ青な顔をして震えながらイザークに訴える。
「裏切ったのは私です。私が、私が裏切り者・・・」
言葉の途中で、キラの体から力が抜けた。

「キラ!」
アスランがキラを抱き留めると、キラは気を失っていた。

***

「キラ・・・どうして・・・」
医務室に寝かせたキラの髪を撫でながら、アスランは困惑していた。

「アスラン、彼女、裏切るという言葉に反応してませんでしたか?」
「そういえば・・・自分が裏切り者だと言っていたな・・・」
「ええ。あなたの婚約者について動揺したというようには見えませんでした」

「キラさまはご存じですもの。アスランと私の婚約のこと」

後ろから突然かけられた声に、アスランとニコルが振り返ると
そこには、イザークとディアッカに伴われた、ラクスがいた。

「ラクス!・・・すみません、ラクス。お迎えにも行かず」
「よろしいのですよ。お二人が連れてきてくださいましたもの。
 アスランはキラさまのことが本当に大切なのですね」
「ラクス・・・」
「キラさまには私から説明しましたけれど、信じてもらえたかどうかわかりません。
 やはりアスラン、貴方の口からお話しすべきですわね」
そう言って、ラクスは眠るキラを見た。

「キラさま、辛そうでしたわ。私に気を使ってか、笑顔ではいらしたけれど」

***

ラクスに話を聞き、一応納得したイザークとディアッカは
帰投後そのままにしたMSの整備をしに戻った。

「キラさまの目が覚めたら、呼んでくださいね」
ラクスはそう言って、ニコルに部屋へ案内されていった。

医務室には、アスランと眠ったままのキラの二人だけとなった。

「キラ・・・何があった?
 やっと手の届くところに来たんだ。これからは俺が守るから。
 もう誰にも傷つけさせないから。だから早く目覚めてくれ」
キラの手を握り、アスランが祈るように言った時、キラの手が動いた。

「キラ?」
そっと声をかけられ、キラの瞼が静かに上がった。

目覚めたキラは瞳を動かし、アスランの顔に目を留めた。
「アスラン!」
現状が把握できていなかったキラは、アスランが間近にいたことに驚き起きあがった。

「あ・・・そっか、ザフトの艦に来たんだった・・・」
「そうだよ。やっと僕のところに来たんだ」
アスランの優しい笑顔に顔を赤らめたキラは、しかしすぐに真っ青になった。
「そうだ!さっきアスランが裏切りって!」
「あれは彼らの誤解だよ。大丈夫、落ち着いて」
震えているキラをアスランはそっと抱きしめた。

「大丈夫。さっきラクスが来て、イザーク達には話したから」
「話?」
「そう。僕とラクスの婚約は偽りのものだってね。・・・キラもラクスから聞いたんだろう?」
「・・・うん。本当なんだ」
「当たり前だろう?僕が好きなのは、ずっとキラだけだよ」
アスランはキラの目を見て、告げる。

「・・・約束、憶えてる?」
キラが声を震わせながらアスランに聞いた。
「ああ。ごめんね・・・戦争が本格的になって、キラの居所がわからなくなってしまった」
「ううん。それは仕方ないってわかってる」
キラは辛そうに微笑む。

「でも、ダメね。私、自分でダメにしちゃったのね」
キラは涙を堪えようとしたが、どうしても泣かずにはいられなかった。

俯いて泣き出してしまったキラに、アスランは驚く。
「キラ?何を言っているの?ダメなんてこと、ないよ。約束は有効だろう?」
「わ・・・私、裏切ったの・・・う、裏切り者、の、コーディネイターなのっ!」

叫んでアスランから離れようと暴れ出したキラを、アスランは強く抱きしめた。

「キラ。キラは裏切ってなんていないよ。
 誰が君にそう言ったのかは知らないけれど、それは真実じゃない。
 僕はそれを知っている。キラは守りたいものがあったんだろう?」

尚も暴れるキラにアスランは
「それとも、僕を裏切ったの?他に好きな人が出来たのかい?」
わざと、意地悪なことを言った。

キラが動きを止めた。

「キラ?」
「そ、そんなこと、そんなことない。ア、アスランより、す、好きな人なんて!」

涙を流しながらアスランを見上げるキラは、力一杯、否定した。

そんなキラに、アスランは満面の笑顔を見せた。
アスランの笑顔に、キラはまた真っ赤になった。

「じゃあ、キラは裏切ってないだろう。ね?」
「・・・ほんとに?」
「ああ。・・・さぁ、もう落ち着いて。君が目覚めるのをみんなが待っているんだ」
「みんな?・・・そうだ、私、捕虜なんだよね・・・」

自分が捕虜という立場であることを思い出したキラは、顔を曇らせた。

「キラのことは僕に任されているんだ。
 ただ、いろいろ話は聞かなくてはいけない。AAのこともあるしね。
 少しだけ、我慢してね。大丈夫、僕がずっと一緒にいるから」
「うん」
そうだ、ここにはアスランがいる・・・もう、アスランと戦うこともない。
これ以上、何を心配する必要があるだろう。

*** next
今日もupできてよかった
話はあともうちょっとの予定

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