背中を押して (本編10話より)


TV本編第10話
ナタルがラクスを人質だと宣言したところ


『救助した民間人を人質にとる、そんな卑怯者と共に戦うのか!
 彼女は助け出す。必ずな!』
イージスが戻って行く。

「違う、僕は・・・僕は・・・」
アスランに、軽蔑された?
違うのに。こんなこと僕は知らない・・・

呆然としたまま、ストライクを反転させた。
アークエンジェルへと着艦し、コックピットを出る。

「フラガ大尉!あれはいったいどういうことです!」
大尉は、自分達が「弱いから」だという。「他に方法が無かった」と。

キラは顔を歪め、格納庫を出ていく。

弱い・・・弱いから?弱ければ何をしてもいいの?
そんな言い訳、許されるわけない。
「あ・・・うっ、うっ・・・あす・・ん、うっ・・・」
戦いたくないのに!
守るために、MSに乗っているのに!
なんで・・・

「どうなさいましたの?」

人が居ないと思っていたのに突然声を掛けられ、驚いて振り向く。

「ラ・・・ラクス」
なんでここに。
「キラさま、辛いことがございましたの?」
え?あ!

慌てて顔を拭う。

「戦いは終わったのでしょう?」
「ええ。あなたのおかげで」
「では、なぜそのようなお顔をなさいますの?」
「・・・」
「とても悲しいお顔をなさってますわ」

「僕は・・・僕は、ほんとうは戦いたくないんです」
ヘリオポリスからの友達には言えないこと。
僕が戦わないということは、この艦が墜ちる可能性が高くなるということ。
それは、みんなが死んでしまうということだ。
でも彼女になら、言ってもいいよね・・・

「僕だって、コーディネイターなんだし。
 ここは地球軍で、僕以外はみんなナチュラルで。
 コーディネイターである僕を嫌う人も居て。
 まして、アスランと・・・大好きな人と、なんで戦ってるんだろう」
「アスラン?」
「アスラン・ザラ。月の幼年学校からの幼馴染みなんです。
 彼があのイージスのパイロットだなんて」
「そうでしたの。
 彼も貴方もいい人ですもの、悲しいことですわね・・・」
「アスランを知っているんですか?」
「私の婚約者ですわ。でも・・・」

婚約者・・・アスランの?アスランは彼女と・・・
そう・・・だよね。
昔、アスランの一番は僕で、僕の一番はアスランだったけど。
3年も音信不通で、同じに想っていてくれるわけ・・・な・・・い。

「・・・もしもし?キラさま?聞いてらっしゃいます?」
「え?あ、うん。聞いてるよ。アスランと結婚するんだよね」
「違いますわ」
「だ・・・だって婚約者なんですよね?」
「ですから、便宜上ですわ。父が勝手に決めたんですの。
 でも、私もアスランもそのつもりは無いのです。
 それに、アスランには心に決めた方がいるのですって」

ショックだった。ラクスが婚約者だということより。
アスランに愛する人がいるなんて・・・

「キラさまのことでしたのね」

は?なんでここで僕が出てくるんだろう?

「うふふ。私の家を訪ねてくださるたびに、月に居たころのお話をなさるの。
 そう、いつも一緒だった、幼馴染みのこと。
 周りにとても気を使っているのに、自分にだけ我が儘を言うのだと。
 それがとても嬉しいと。
 仮にも婚約者の前で、惚気るのですわ」

な・・・アスランってば・・・///

「まあ、キラさま。お顔が真っ赤ですわv」
「ラクスが・・・変なこと言うからですよ」

うう。顔の火照りが治まらないよ・・・///

だが、唐突に思い出した。先ほどのアスランの言葉を。
一気に血の気が引き、震え出す。

ラクスが言うのは、ヘリオポリスで再会する前でのことだ。
何度もアスランが差し出した手を振り切った僕を。
ラクスを人質にするようなところに居る僕を。
彼は・・・嫌いになっただろう。
だけど、せめてこれ以上・・・

「ラクス。黙って一緒に来てください」
「キラさま?お顔の色が悪いですわ。もうお休みになられたほうが・・・」
「大丈夫です。アスランのところへお連れします」

そうだ。僕がどうあろうと、ラクスは帰してあげなくちゃいけない。

***

パイロットスーツのキラは、宇宙服を着たラクスと共にストライクに乗り込む。
ブリッジからの通信を無視し、エアロックを開けて発進した。

『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のMSストライク!
 ラクス・クラインを同行・・・引き渡す!
 ただし、イージスのパイロットが単独で来ることが条件だ!』

全周波回線で呼びかける。

ザフト艦から、MSが一機・・・
イージスがストライクの目の前に停止した。

『アスラン・ザラか。』
『そうだ。』
『コックピットを開けろ。』

イージスとストライクのハッチが開き、互いのコックピットが見えた。

『ラクス、何か話してください。』
『え?』
『顔が見えないでしょう?
 ホントに貴女だってこと、わからせないと。』
『ああ、そういうことですの。
 こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ。』
アスランに向かって手を振るラクス。
『確認した。』
『・・・なら彼女を連れて行け。』
アスランがコックピットの上へ出た。

『ダメですわ。』

は?

『ダメだと言ったのです。』

キラもアスランも動きを止めてしまった。
突然なにを言い出すのだろう。
ラクスを戻すために、二人ともここにこうしているのだ。
それなのに、その本人がダメだという。

『キラさまも共に参りましょう。
 あの艦に居ることが、お辛いのでしょう?
 アスランともう戦いたくないのでしょう?
 あんなに苦しそうに泣いていらしたではありませんか。』
『ラクス・・・できないよ。あの艦には友達が乗っているんだ。
 僕が艦を降りるということは、友達を見殺しにすることなんだ。』
『あら。そんなことはありませんわ。
 投降すれば、身の安全は保証されますもの。
 キラさまが戦う義務はありませんのよ。
 ねぇ、アスラン、そうですわよね?』
『そのとおりです。』

いつのまにか、キラの目の前にアスランが居た。
キラがラクスに気を向けている間に、イージスから移ってきたのだ。

『キラ。行こう。俺はもうおまえと戦いたくない。』
『で、でも・・・アスラン、僕のこと嫌いになったんじゃないの?』
『俺がキラを嫌うわけがないだろう?』
『だ・・・だって、僕、何度もアスランを・・・』
『それは、悲しかったけど。でも、それとキラを嫌うのは違うだろう。』
『・・・だけど、もう、アスランの一番は僕じゃないよね・・・』
『キラが一番に決まっているだろう?
 もしかして、ラクスとの婚約を言ってるの?』
『そうだよ!』
『まぁ、キラさま。それは名目のみですと申し上げましたでしょう。』

そんなこと・・・名目上だけだろうとなんだろうと、婚約は婚約なんだから。
涙目でアスランを睨むキラ。

『キラ。世界で一番キラのことが好きだ。愛している。
 ラクスとの婚約は、すぐに破棄する。・・・よろしいですね、ラクス?』
『もちろんですわ。』
『ずっと、俺の傍に居てくれるかい?』

アスランが、僕を・・・好き?
ずっと、アスランと一緒に居ていいの?

『僕は、ザフト軍と・・・プラントと敵対したんだよ?
 捕虜になるんでしょ?一緒になんて居られないよ、きっと。』
『キラは民間人だ。たまたま、巻き込まれただけなんだ。
 大丈夫。俺が守るから。信じて?』
『でも・・・』

ほんとうに、いいのかな・・・アスランに迷惑がかからないかな・・・

『キラ。俺と来るね?』
『・・・うん!』

『やっと決まったのか・・・』

突然、知らない声が聞こえた。

『イザーク!』
アスランの知り合い?

周りを見回すと・・・いつのまにか、G三機に囲まれていた。
(イージスも入れると四機だが)

『足つきはとっくに去ったぞ。』
かなり不機嫌そう。

『隊長が、さっさと帰投しろってさ。』
こちらは、楽しそうである。

『アスラン、ラクス嬢とそちらの・・・キラさんといいましたか、
 とにかく、お二人を艦へお連れしましょう。』
とても優しい声だ。

『アークエンジェル、黙って行っちゃったんですか?』
ひとことくらい、なにか言ってくれてもいいのに・・・

『話しかけられないほど、自分たちの世界を作っておいて、何を言う。』
『みなさんの会話はすべて全周波回線で流れていたんです。
 ちょっと、話に割ってはいるのは勇気がいったと思います。』
『これから、楽しくなりそうだな!』

***end
せっかく邪魔が居ないのに、なんで連れてっちゃわないの!
アスランが強引にいかないので、ラクスにプッシュしてもらいました。
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